ナビゲーションをスキップ
研究代表者:浅利 晴紀
地磁気は時間と共に変化します。そのスケールは非常に幅広く、自然現象に由来するものでは、数十秒単位(地磁気脈動)から数十万年(地磁気逆転)にまで及びます。これらの地磁気変化は、地球内外に存在する電流の分布と強さの変動を反映しています。数年よりもゆっくりした成分である地磁気永年変化は、地球中心核を流れる電流を主たる起源とします。永年変化を詳しく調べることは、地球中心核の構造や、そこで生じている現象の解明に繋がる上、近い将来の地磁気の姿を予測することにも役立ちます。 この調査では、柿岡で観測されたデータから永年変化の最も短い成分である「数年程度の微小な揺らぎ(経年成分)」を抽出することを目指しました。鍵になるのは、この経年成分を、地球磁気圏や電離圏の電流を起源とする地磁気変化から分離することです。厄介なことに、太陽活動に呼応して変動する磁気圏の電流がもたらす地磁気変化は、永年変化の経年成分を覆い隠すように観測されるのです。 そこで、柿岡の膨大な地磁気データの蓄積を生かし、機械学習を利用した地磁気の変動成分を分離する手法を考案しました。ここでは、近年の人工衛星による地磁気の全球稠密観測にもとづく高精度地磁気モデルを教師データとします。1時間毎の地磁気擾乱指数の入力に対し、柿岡における磁気圏・電離圏起源の地磁気成分を出力するよう学習させました。このようにして得られた出力は、地磁気嵐などを含む磁気圏・電離圏の地磁気現象による変化をおよそ再現します(図1)。これは、複雑な地球電流系の具体的なモデル化を省略し、経験的な方法による起源分離の推定も可能であることを示しています。
図1 柿岡における磁気圏・電離圏起源成分の毎時値(青が観測データ、オレンジが機械学習による予測)。 上から北向き(X)、東向き(Y)、鉛直下向き(Z)成分(単位はnT)。 横軸は1時間を単位とした2000年11月1日0時(世界時)から1ヶ月間の通算時間(250時間までに3度の地磁気嵐が発生している)。
学習モデルの入力に用いる地磁気擾乱指数(Dst指数・AE指数)は、京都大学の地磁気解析資料センターにより1950年代まで遡って公表されています。従って、以降の約半世紀に渡って柿岡データに対する学習モデルの出力が得られます。つまり、近代の人工衛星観測による詳細な知見が、観測情報の乏しい時代の柿岡データの起源分離に応用されることになります。機械学習を導入することで、過去に遡って永年変化の経年成分を抽出する新しい手法を確立することができました。(本調査はオレゴン州立大学の今村尚人博士の協力により行われました)