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令和元年度調査研究のトピックス(3)

電磁気による火山活動評価の高度化に関する調査

研究代表者:山崎 明

活動的な火山ではマグマの上昇や熱水系の発達などにより、岩石の磁化が弱まり地磁気が変化する、あるいは比抵抗が下がるなどさまざまな地球電磁気的現象が観測されます。地磁気観測所では主に全磁力観測による火山活動の評価手法の研究に取り組んでいますが、ここでは地磁気永年変化に伴うDI効果と、その補正処理について紹介します。

火山活動の監視を目的とした地磁気観測では、活動的な火口周辺に全磁力計を設置します。その観測データから地球規模の広域的現象である地球磁場変動の成分を取り除くため、通常は火山活動の影響を受けない火口から離れたところにも全磁力計を設置(以下「参照点」という)します。地球磁場変動は十数km程度の範囲ではほぼ同じとみなすことができるので、火口周辺の観測点と参照点の全磁力の差をとる処理により、火山活動に伴う全磁力変化を抽出することができます。しかしながら、各観測点が持つ局所的な特性により地磁気の向き――偏角(D)と伏角(I)――が異なっていると、前述の方法では「見掛け」の全磁力変化が残ってしまうことがあります。これはDI効果と呼ばれており、火山活動に伴う数nT程度の微弱な全磁力変化を検出する上で障害となります。

そこでDI効果を除去するための処理「DI補正」を施します。DI補正には原理的に次の二つの情報を必要とします。
 @地球磁場の変動量(向きと大きさ)
 A全磁力観測点毎の局所的な偏角・伏角
@を得るため、参照点には三成分磁力計を設置します(@のうち、地磁気嵐などの短期的な変動に対するDI補正はこちら)。しかし、三成分磁力計は設置環境(温度や傾斜)の変化に影響を受けやすいという弱点があります。通常、火山観測で用いる参照点の限られた設備では@の長期的な変動(永年変化という)を安定して観測することは困難です。そこで、その代用として、人工衛星観測に基づく高精度の全球地磁気モデルによる三成分値を使う方法を考案し、伊豆大島での地磁気永年変化に対するDI補正に応用することにしました。

一方、Aに対しては現地に赴いて測定するための器械を新たに開発しました。写真1は、その器械を実際に用いて伊豆大島の全磁力観測点で偏角・伏角を測定している様子です。測定の結果、磁化の強い玄武岩質の岩石で構成されている伊豆大島では、観測地点毎の偏角・伏角の相違が数度ほどにも達することが確かめられました。

写真

写真1 全磁力連続観測点における偏角・伏角の簡易測定の状況

以上の新しい情報を用いて全磁力観測データにDI補正を実施したところ、伊豆大島での全磁力観測に対する永年変化のDI効果が明らかになりました。例えば、三原山火口北側に設置された2つの観測点(三原山北1・三原山北2、図1)は、互いに40m程しか離れていないにもかかわらず、その全磁力の永年変化の傾向(トレンド)は大きく異なっています(図2のグレー)。これらに対してDI補正を施すと、そのトレンド差の大部分が解消することが確かめられました(図2の青と緑)。地磁気永年変化に伴うDI効果が、実際の全磁力観測値のトレンドに重大な影響を与えていたということです。

図1

図1 伊豆大島における全磁力観測点(三原山北1、三原山北2)


図2

図2 三原山北1と三原山北2観測点におけるDI補正前後の全磁力差の変化(縦軸の単位はnT)


今回の研究から、地磁気永年変化に対するDI効果の有効な補正法が示されました。このDI補正により、火山活動に伴う全磁力変化の抽出がより正確にできるようになり、火山活動の活発化に伴う火山体内の熱源の規模や位置を特定する精度が向上すると期待されます。




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